届け手含め「三方よし」
正装でプレゼントを配達、メッセージ代読…
プレミアム配送のサンタデリバリー
オプションで記念撮影やラッピングアレンジなどが選べる
JR京都伊勢丹皮切りに
“早い・安い” が追求され、コストとしてしか見なされていなかった「配送」に、真逆から光を当てるスタートアップが立ち上がった。
21年2月に設立したサンタデリバリー(東京)だ。贈り手ともらい手をつなぐ「届け手」も含めた “三方よし” を、プレミアム配送という新しいサービスで実現しようとしている。
(金谷 早紀子)
届け方にお金を払う
「プレゼントをお届けに参りました」。タキシードに白手袋姿の男性が、紙袋を手にマンションを訪ねた。扉を開けた女性は、そのたたずまいにびっくり。「息子さんから、いつもありがとうというメッセージをいただいています」。男性がメッセージカードを読み上げると、女性は「息子が…。ありがとうございます」とほほ笑んだ。
男性の正体は、ヤマト・スタッフ・サプライの配達員。依頼人の息子の代わりに、母の日のプレゼントをフォーマルな装いで手渡した。これは、サンタデリバリーがJR京都伊勢丹に提案して実現した、新しい「母の日」の形だ。
サンタデリバリーは、配送を軸に、キャンペーンの企画立案、パッケージデザインやコンテンツ制作までを一気通貫して行う。いわば、「届けるを軸としたブランドコミュニケーション設計」を事業とする。初クライアントとなるJR京都伊勢丹では、母の日ギフトの新しい形として、要望に沿ったラッピングアレンジ、フォーマルな装いでの配達、メッセージの読み上げ、記念撮影などのオプションサービスを用意。配送はヤマトに依頼した。
緊急事態宣言の影響で、注文受付は店舗での2日間のみ。特異なサービスにもかかわらず、10人から注文があった。オプションサービスと送料を合わせた平均配送単価は、通常の10倍の6,800円。プレゼントそのものだけでなく、「届け方」にもお金を払いたい人がいるはず」という仮説が確信に変わった。
実際の配送では、大喜びで記念撮影に応じる人、その場では恥ずかしそうにしながらも子供に喜びを伝える人など、総じて好反応。配達員も「めっちゃ良い仕事をした」「心地よい疲労感がある」とやりがいをかみしめていた。
“遅い・高い”を価値に
配達の価値向上にこだわった理由は、西尾浩紀社長の強い思いからだ。西尾社長は、物流にまつわる様々なプロジェクトに携わって18年に独立。物流コンサルティングのケイプスを経営している。当時は社会問題として、「宅配クライシス」が顕在化していた。配達時間や送料をひたすら削ることがサービスとされる一方で、配達に携わる人々が疲弊し、物は増えるが人が足りない悪循環を身にしみて感じていた。「遅くても、高くても価値になるというアンチテーゼを示したい。届け手も豊かにする世界観を作る」。この思いで第二の創業に至った。共同創業者として、友人の岩崎達也さんが取締役に就任。「配送の価値化はまさにブルーオーシャン。できることはいっぱいある」と可能性を感じている。
社名には、ホスピタリティー豊かな届け手のモチーフとしてサンタクロースを選んだ。クライアントのニーズに合わせ、サンタのコスプレやキャラクターの着ぐるみで配送するというサービスも考えている。
コロナ下で「置き配」が定着し、配送はさらに無機質なものへと向かっている。同社の取り組みはその真逆を行くものだが、ブランドコミュニケーションのラストワンマイルを豊かにするものとして興味深い。ラッピング止まりだったギフトサービスの新たな選択肢として定着するか。今後に注目だ。
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西尾浩紀社長
ジュピターショップチャンネルやアビームコンサルティング、モノタロウで物流にまつわるプロジェクトに携わる。18年に独立、物流コンサルティングのケイプス(東京)創業。
岩崎達也共同創業者、取締役
リクルートコミュニケーションズ、楽天を経て、ロフトワーク京都に勤務。16年、泊まれる雑誌がコンセプトのホステル「マガザンキョウト」を設立。17年にクリエイティブエージェントのマガザン(京都)創業。